ブラジルモアイ大納言の日記

うれしい!たのしい!だいすき!

あんぱん

・・・

僕の近所には小さいパン屋がある。

僕の住む小さい町には似つかわしくない、洋風のカラフルな建物だ。

物心ついた頃からよく家族で買いに行っては、その頃見ていたアニメキャラクターの顔を模したアンパンが好きで、喜んで食べていた記憶がある。



なんであんなにあのお店が好きだったのか、を考えるとアンパンの味や食感が好きだったんだと思う。

どこにでもありそうなパンのくせして、ふわっとした外生地にしっとりとした中身。

幼い頃の記憶だからか、こんな抽象的な表現でしかあのアンパンを表現できない自分が情けないが、「確実にこのパン屋でしか出せないものだ」と幼いながらに感じていたのだ。

好きな理由は実はもう一つある。

それはこじんまりとしたパン屋に
「秘密基地」みたいな印象を持っていたところだ。

秘密基地というよりは、「ここは小さい我が町にある、隠れ家的パン屋」の方が近いかな。

「この店には近くに住む僕しか知らないんだ」という優越感。
隣町に住む友達も、隣の県に住むいとこも、この店は知らない。

僕はツウな人間なんだなぁと感じられるから好きだったんだと思う。


この町にしかない隠れ家的パン屋のアンパン。その良さを知っているのは、この町に住む僕くらいなものだろうと思っていた。


・・・

高校生になり野球部に所属した僕は、四六時中お腹が減っていた。
毎回2時間目後のショートホームルームでは、お弁当を完食するほどだったので、練習終わりの帰り道なんかは餓死寸前だったかと思う。

そんないつもの練習帰りに事件は起きた。

いつもの帰り道が工事中だったため、遠回りをして帰った日。

あのパン屋があったのだ。

まだ家の近くではない。
高校は地元ではなく2つ離れた町の高校だったから、もちろんあのパン屋とは違う。

しかし、店名やお店の西洋感、色使い。全てが地元のあのパン屋と同じなのだ。

そこで地元のパン屋はチェーン店だと悟った。
そう。2つ離れたこの町以外にもあのパン屋はある。地元のあのパン屋はチェーン店の1店舗に過ぎなかったのだ。

心の中にあった「小さい我が町にある、隠れ家的パン屋」という特別感を失ってしまったけれども不思議とそこまで落ち込まなかった。
どちらかというと「ここにもあったんだぁ」という驚きの方が大きかった。


しかし、そのパン屋は、僕の地元のパン屋と同じチェーン店だが、テラス席があったり、店内が広かったりと、こじんまりとした隠れ家では無かった。
同じチェーン店であっても、なんというか豪奢であり、正直こっちのお店の方がお金あるんだろうなぁ…と地元のパン屋と比べて考えてしまい、少し残念な気持ちになった。

あまり外からジロジロ見ているのも怪しいし、餓死寸前だったのもあり、店内に入ることにした。

ドアを開けると、出来立てのパンの醸し出す温かい匂いと「一番人気!」と書かれた色とりどりなポップ、西洋を思わせる店内BGM。どれも五感を楽しませてくれた。

並んでいるパンの種類も豊富で、お客さんもやはり多かった。

(なんか食べよう)と思いパンを眺めていると、なんとあのアンパンがあったのだ。

子供に人気な、夕方4時頃に見るあの顔。

「な、なつかしいぃ…!!」

店内に入るときに薄々(同じチェーン店ならもしかしたら…)と感じてはいたが、本当にあるとは。
「地元にしかないと思っていたパン屋が、違う町にもある。しかも地元よりも豪奢」ということへのショックは、久しぶりに見たアンパンの前ではすっかり忘れてしまっていた。

しかし
(あぁ…その笑顔は僕の前だけに見せる笑顔じゃなかったのか…!!)

とも感じてしまった。嫉妬だこれは。

テレビで見る以外のプライベート(勝手に呼称)では、僕はアンパンのあのヒーローを独占していた、と思っていた分辛かった。ほかの人ともプライベートを過ごしていただなんて。


…久しぶり故に色々感情が湧いたが、とりあえず買った。

この歳でキャラクター顔のアンパンは買うのはちょっとなぁと思ったが、久しぶりに食べてみようと思った。

僕は折角だからと思い、店内の横にある素敵なテラス席にて、いただくことにした。

いただく前に(ふん!同じ顔なんだからどうせ同じ味でしょ!せめて「そうそうこの味、懐かしい!」くらいは思わせてよね!)と、ツンデレみたいな考えを巡らせて口に運んだ。

ところがどうだろうか。なんか味が違ったのだ。

同じ店、同じ顔。
「そうそうこの味、懐かしい!」とかなるはずなのに。

たしかに美味しいのだが、この町の、このパン屋のアンパンはボソボソしているし、ふわっとした感じがしない。
あれ?買ったアンパンできたてだったよな…?
こしあんか、つぶあんの違い?

元気100倍になんかにならんぞ?
お前はいつでもどこでも同じ味じゃないのか…?
なんか違う…?

たしかに美味しい。空腹の僕を満たしてくれた。
だけど、なんだろうか。「空腹は最高の調味料」といった名言もあるが、まったくといって言いほど感動をしなかった。
最高ォォ!とはならなかった。

同時に、疑問が残った。
「同じチェーン店のパン屋の、同じアンパンなのに場所が違うだけでこうも変わる…??」と。

・・・

あの疑問から数年が経つ。
今でもたまに地元のあのパン屋に行く。

今考えれば、同じチェーン店であっても、店でこねて焼いて…といった工程は店ごとで違うはず。
そうすると当然、味に差は出てくる。
とはいっても、同じチェーン店なら材料も同じだし、作り方も同じ。味の違いは作り手の差なのだろうか。

幼少期に食べたときと、高校生のときとで味覚が変わったのでは?という説も考えたが、そうなのか?どこかしっくりこない。

ーそれともあれか、地元が生み出す隠れ家的要素に憧れた僕に、パンの神様がアンパンに魔法をかけたのか?ー

しかしあのアンパンは我が地元のパン屋に無い。
店頭を眺めてもどこにもない。
いつ無くなってしまったのかは分からないが、店頭には無いのである。

…今になっては真相は分からないが、あのアンパンが、幼少期の僕の思い出になっているなら、それでいいか、と心のアルバムにそっと閉まった。

・・・

ある日、家族が散歩がてらに洋風のあのパン屋で買いものをしてきた。

パンを食べながら「僕が小さい頃好きだったこの店のアンパンあったじゃん?あれを超すアンパンはどの店にも無いんだよね。」と話すと

「何言ってんのよ〜この店にアンパンは無かったわよ。この店で、あなたが昔から食べてたのはメロン◯ンナちゃんのメロンパンでしょう?アンパンは…あれよ、駅のSEIYUで売ってたパンだったわよ

僕は赤面が止まらなかった。

バタ子さん、早く僕に新しい顔を。

・・・

お久しぶりです。けんていです。なんとか生きてます。
2ヶ月ぶりの投稿でしたが、思いついたら書いていこうと思います。